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2014 10,09 00:00 |
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+++ 俺たちは俺の遺伝子を持った犬を探すことになった。俺が生きている以上、俺だって自分自身の垢なり毛髪なり、気付かぬうちに世界中に落としながら生活しているわけで、そんなの構わないと思う。だが、キュービックからすると、そんな簡単な問題ではないらしい。なんでも、細胞融合に関する特殊なウイルスがどうとか言っているが、高校理科の大半をすっぽかしていた俺にはよくわからない。スパーテルというスプーンの名称だって、クロスフィールド学院の中等部時代にパズル製作実習があって、そのとき使った記憶がたまたま残っていただけで、覚えていたのが正直奇跡に近い。 「ねえ、カイトお願い! このことは、なるべく誰にも言わないで。ルークもだよ。特に、学園長には絶対に内緒にして」 「オッサンに? こんな恥ずかしいこと言うかよ。でも、何で?」 「倫理委員会に伝わったら、称号持ちへの奨励金が降りなくなっちゃう」 「奨励金? そんなもんあったのか」 「あるよ。カイト、君が在学中に破壊したクラシックカーの修理費などは、そちらから賄われていたんだ。あと、学生食堂も無料だっただろう」 そうだったのか。さすがPOG管理官、お詳しい! ってのも今の俺にはどうでもいい。俺が高等部を卒業して早1年。でも、俺の顔を知る在校生も多い。あの犬はまだ遠くには行ってないはずで、在校生に見つかったら、ちょっと恥ずかしい。例えばエレナなら、POGのギヴァーだし大人っぽいところもあって、事情を察してくれそうだから、まだいい。だが、アイリなんかはどうだ。絶対騒ぐし、パズル部で飼いたいとか言い出されたら、俺、もう学園に帰って来られねえ。もちろん可愛い後輩だが、そういうところはちょっと困る。 「……カイト? まずいことでも?」 「あ? いや、悪い」 「だからね、カイト。イワシミズ君にも手伝ってもらうから、アナと、ルークと、5人だけの秘密にして。僕は、ルーク犬とここに残って調べることがあるから、悪いけど、よろしく頼んだよ」 「おう」 「わかった」 「うん、がんばるね~! キュー太郎、あー太郎!」 「ドクトル。マカセテ。マカセテ」 こうして俺たち3人は、充電の完了したイワシミズ君と手分けして、俺に似た犬の捜索活動を開始した。 +++ 「さーて。みんなもいなくなったことだし。君自身に質問するよ」 仲間を見送ると、キュービックは実験台の上にルーク犬を降ろした。 「君やカイト犬が外で自由に安全に遊べるかどうか、今から、身体を検査してもいいかい。嫌なら、無理強いはしないけど、検査の結果によっては、2匹がより長く一緒にいるために避けたほういい行動がわかるし、僕は、君たちの健康をサポートできる」 子犬は、白い綿毛をふわふわと揺らしながら、頭を右に、左に、傾けている。 「……僕の言ってること、わかる?」 印刷し損じたコピー用紙を二枚掴むと、油性ペンで絵を描いた。一枚目に、ルーク犬に人間の手があちこち触る絵。二枚目に、ルーク犬とカイト犬が仲良く並んで、太陽が出て、月が出て、それを3回繰り返した絵。それらを、左から白板に貼りつける。左右の絵を交互に指差し、目の前の子犬の意思を確認した。右の絵に近寄ると尾を振りながらカイト犬を舐めたので、あ、インク舐めちゃだめ、と急いで白板を離す。辛抱強く左右の絵を順に指し示すと、二つの絵が切り離せず、順を追って発生する事柄であると気が付いたようで、最後には左の絵の前に座り込んだ。 「ありがとう、同意と受け取るよ。じゃあ早速。ちょっと失礼」 キュービックは手袋を嵌め、ルーク犬の顎に手をかける。 「口を大きく開けてくれる? 中に物を入れるけど、すぐに取るし、痛くないから我慢してね」 マズルが小さいせいで、あまり大きく開かなかったが、適当な大きさのボールをガーゼでくるみ、咥えさせる。噛まれないようにするためだ。頬の内側に少量の水をかけ、ガーゼで拭った後、もう一度口内を綿棒で拭い、すぐにボールを取り出した。ルークの遺伝子の影響なのか何なのか、白衣や検査に怯える様子もなく、口を開いたままじっとしている。 「はい、終わり。もう、口を閉じていいよ。僕が呼ぶまで何しててもいいけど、結果が出るまで、この部屋からは絶対に出ちゃだめだからね」 さきほどから、ルーク犬は彼なりに自分の置かれた状況の理解に努めているようで、カイト犬と違って、むやみに動き回ろうとしなかった。横目で様子を見ながら、綿棒の先端をマイクロチューブに浸して軽く振り、蓋をして分析機器にセットする。 「あー、あと、トイレ。したくなったら、そうだなぁ、このバット使って。吸水ポリマーを敷いておくから。あっ、まさか、外では用を足してないよね?」 小さな犬は、再び首を傾げた。いかんせん、半日前までは無生物だった存在だ。まだ、排泄をしたことがないかもしれないし、今後もしないかもしれない。念のため、だ。キュービックがパソコンのサーチエンジンで犬の排泄画像を検索し、外ではだめ、必ずこの中、と低い声で示すと、意味が通じたのか、床を掃くように、かすかに尾を振った。それから、実験台の上に転がる鉛筆を一本咥えて戻ってくる。 「紙は、これを使っていいよ」 廃紙入れから適当な量を抱えて、台の上に置いた。すると子犬は、鉛筆を咥えて首をひねったまま、機嫌よく鼻を鳴らして、紙の上にマスやら図形やらを描きはじめた。 「カイトたちには大きな声で言えなかったけど、君たちはカイトやルークの遺伝子だけでできているわけじゃないんだ。僕たちの言葉も少しは通じるみたいだけど、何の疑いもなく、犬の声を出し、尾を動かして、犬として行動しているところがその証拠さ。元のぬいぐるみが犬の形をしていたからだなんて、僕の本来の研究が中断されたうえに、そんなメルヘンな理屈、僕は認めないんだからね」 遺伝子の増幅と解析は機械に任せるとして、結果を考察するための下調べは、人間にしか行えない。それから、この生物の観察もそうだ。形態学的な特徴や生理機能は、別途調べねばなるまい。小型犬の許容被爆線量はいくらだったかな、などとぶつぶつ呟きながら、キュービックは室内や準備室を行ったり来たりしていた。 +++ 「おーい、ぬいぐるみー。いるかー」 俺は、自分の勘を信じて、高校生の頃俺が好きだった場所をひととおり巡った。食堂の天才テラス、青空の見えるベンチ、それから図書館。あの犬が俺だってんなら、俺の好きな場所好きだろ。だがしかし、あいつの姿はどこにもなかった。特にテラスは、美味そうな香りに誘われて厨房裏で残飯あさりをしている可能性も踏んで念入りに探したのに。何気なくスマホを確認すると、画面にはキュービックが好みそうな、美しい四乗数がデジタル表示されていた。 「4時か……」 午後の授業が終わって、部活に向かいはじめる頃だ。活動のない生徒は、敷地内の各所に散らばって、駄弁ったり自習をやりだす。混む前に、あと外が暗くなる前にカタつけねえとまずいな。夜になると、この辺りはタヌキが出る。手足のない生後1日のぬいぐるみ犬に勝機はなく、翌朝に綿の飛び出た無残な俺の姿が……、なんて、想像したくねえ。 「どこに居んだよ、あの場所以外で……」 ただ、冷静に考えれば、あの犬が俺のクローンのようなものだといっても、俺と記憶を共有しているわけではない。あの犬は、知らないのだ。当時の俺がなぜ、青空の見える場所を好んだか。図書室で、どの本を夢中で眺めていたか。重大な取りこぼしに今更気付いて、俺は肩を落とした。 「そっか……。居るわけなかったんだな、最初から……ん?」 俺たちが公園で2匹を捕まえたとき、あいつらは既に打ち解けた感じだった。あれは、つまり、俺たちはショックな出来事を経なくても、近くにいればあんな風にすぐに互いを構いあう関係になっていたんだろうか。運命ってやつかな……、うれしい……。じゃなくて! それなのに、最初に会ったとき、俺だけミカン箱の中に居たのはどうしてなんだ。俺だけ拾われて、誰かに入れられたのか? それとも、あれもパズルだったのか? 今だって俺のほうだけどっか行っちまうし、離れがたいほどの仲なら、ずっと一緒に居ればいいだろ。ラボラトリで犬のルークが俺に噛みついてきて知らせたのって、たぶん犬の俺と一緒に居たかったからだ。 「あの俺は、置いて行かれたことがないから、パズルに夢中で、独りにされる寂しさがまだわかんねえんだろうなぁ。生まれた瞬間から隣にルークがいて、ルークはいつでも追いかけてきてくれるし、また会えればいい、って、きっとそう信じきってる」 子犬相手に大人げないが、溜め息が漏れていた。俺がルークに惹かれた状況のひとつとして、パズルはもちろん、憂鬱や孤独感の共有があった、というのは否定できないし、割合大きかったと思う。 「寂しいから好きになった、ってわけでもねえけど、心の満たされた俺が、パズル得意だからってだけで誰かに簡単に懐くか? ……いや、懐くか……」 脳裏に今は亡き師匠の顔が浮かぶ。初対面の見知らぬオヤジにパズルチックな哲学を突然語られて、奇しくも俺は、たいへん強く心を打たれてしまったんだった。 「いやいや。あれは、父さんと母さんが他界した直後だったろ。やっぱ、ねえよなあ。何なんだろ、あの俺にとって、ルークに惹かれる理由ってのは」 あんな……、人目もはばからず、顔舐めまくってたし、大好きなんだろ。あの俺も、あのルークが。居場所がわからなくても、それがわかれば戻ってこさせることはできるんじゃねえか? あと、ミカン箱と、刺さりまくったスパーテルは、どういうパズルだったんだ? +++ キュービックが研究の際、相手の意思を確認するようになったり、 カイトがカイト犬の無邪気さにアチャーとなったり、 3期までやその後に色々と経験したみんなは、大人になっているかなあ PR |
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