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2017 02,12 17:00 |
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いつものように、二人が長老の庭の、池の端で遊んでいるときのことでした。 「なぁ、ルーク」 「なに?」 土の上に図形を描く手を止めて、カイトのほうへ顔を上げました。 「こないだな、俺も小便じゃないやつ出るようになった」 「そうなんだ、おめでとう。いいことだよ」 既に精通を迎えていたルークは、友人の成長を素直に喜びます。カイトはにこにこ顔で返事しました。 「うん。父ちゃんにも、ほめられた。子どもができるって」 「そうだね」 「でも俺、ちんこがどきどきするのはパズル解いてる時とかだから、お嫁さんとまぐわい? できないかも」 言葉の割にはがっかりしている様子がありません。村の定める成人の歳まであと数年あり、まだ必要を感じないからでしょう。 「そのうち、パズル以外の好みも増えるさ」 「パズルよりかっこよくてかわいい子なんている?」 待つのが苦手なカイトは、友人に描画を再開するよう促しながら、話を続けます。 「ルークはいいなぁ。妹が好きなんだろ」 「……居もしない相手を好きだったというのは違うね。憧れはあったけど」 あまり得意ではない方向に話を振られても、地面を見つめながら返事をさせてもらえることに、ほっとしました。 ルークはイギリス系日本人三世です。祖父母は日本の建築に興味を持ち、若かりし頃の長老と数名の家来とともに、この村にやってきたと聞いています。ルークの祖父母は村で唯一の外国人夫妻となりました。 かつてイギリス人であったことを忘れないために、彼らの息子と娘の間にもうけた子がルークです。ルークも将来生まれるであろう妹と子をなすものなのだと、幼い頃からずっと聞かされて育ってきたのです。 「もし妹が生まれてたら、かわいがったと思う?」 「もちろんかわいがったろうよ。だって家族だよ?」 「まぐわい、できた?」 「両親は仲が良かったから、僕にもできたんじゃないかな」 6、7年ほど前の、ややぼやけつつある風景を思い浮かべます。夜半に両親の部屋の近くを通りかかると、時折、甘い声がさざれ波のように漏れ聞こえてくる記憶が、おぼろげながらあるのです。父親もそれについて、その頃のルークにわかる範囲で隠さずに教えてくれましたし、よその家庭を知るまでは、兄妹はそのように愛し合うものなのだと信じて疑いませんでした。 「楽しいのかなあ、パズル解くより」 「わからない。どうだろう」 「俺、お嫁さんよりルークと一緒にいたほうが、絶対どきどきする」 「それはほめられてるの?」 「ほめてる!」 完成は今か今かと、少しずつ広がる図形の前に両手両膝をつくカイトを横目で見やって、苦笑しました。だって、今はまぐわいの話をしていたのです。自分は今、その相手にふさわしいと、隣の友人に白羽の矢を立てられたのですから(最もふさわしいのはパズルなのかもしれませんが)。自分で発した母国語の意味をいまいち理解しておらず、邪気のないこの友人を、ルークはとてもいとしく思います。 祖父母が他界し、声をなくす病で両親を失い、同時に妹が生まれる望みを絶たれた頃から、ルークにとって安心できる存在は、カイトと彼らの両親だけでした。禊のために引き取られた先は長老邸でしたが、彼らはなにか隠しているように見え、どうにも親切ではありませんでした。 「ありがとう。君の前には将来、素敵なお嫁さんがきっと現れるよ」 お待たせ、と両手を広げて示すと、友人は顔を輝かせて地面に飛びつきます。 夢中でかじりつくその姿に、ルークは腰が重たくなるのを感じました。それでも妹が居なければ、両親や祖父母の願いは叶いません。この日も夕暮れになると、ルークは浴衣を着がえてお勤めに出かけていきました。 PR |
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