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2017 08,30 12:00 |
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□ 飛び掛からんばかりに近寄ってきた黒髪の子どもに、白い子どもは大きな青い目を丸くして、背中の幹に張り付くように後ずさりました。 「き、きみは……っ、パズルがわかるの……?」 カイトが今解いている、仕掛けを考える遊びのことを、この子どもはパズルと呼んでいるといいます。 「うん。大好き!」 それから、カイトはパズルが得意な白い子どもと、よく一緒に過ごすようになりました。背が伸びるまで、昼間は自由に遊んでいられるからです。といっても、白い子どもと会えるのは、週のうち半分くらいです。農家の子どもではないようで、長老の庭の周り以外で会うことはありませんでした。 「お前の家って、どのへん?」 「あっちのほうだよ」 白い子どもは、今いる庭から北方の林沿いに並ぶ家々を、手のひらで示します。 どうりで、と思いました。カイトの家は、村の南側です。この村では、南から東にかけて住まう人々が作物の世話を、北は林と家屋の手入れを、西は商いを担って暮らしています。カイトが北の村人に会うのは家の大掛かりな補修をお願いする時期と、火事や葬式のときだけでした。 「じゃあ、お前の父ちゃんは大工かぁ」 「うん。力仕事というよりは、図面を描いたり、木材の試験をしたりしていたね」 まるで昔を振り返るような様子に、カイトは首をかしげました。 「今は、していないの?」 白い子どもは、はっとした様子で、言いよどみます。 「?」 「……禊でね。しばらくここに預けられているんだ」 カイトは、悪いことを聞いてしまったなと、心を痛めました。 「禊」は、家内で不幸や災いがあったとき、穢れを洗い流すために取られる一連の行動のことです。きっと、この子は当面の間、家に戻れないのでしょう。でも、不思議です。最近は訃報の回覧がありませんでした。念のため、尋ねることにしました。 「お前、名前は? ぼく、大門カイト」 「ルークさ。ルーク・盤城・クロスフィールド」 聞いたこともない響きです。 「長い名前だね。どこまでが苗字なの?」 「苗字……Family name……は、Crossfield、かな」 「後ろが苗字なの? じゃあ、下の名前がルークバンジョー?」 「いや、名前はRookだね」 「バンジョーは何?」 「ええと……」 次々と繰り出される質問に、ルークは記憶を辿って答えていきます。 「Crossfieldの苗字が使えないとき、代わりになるものだと聞いているよ」 「苗字が使えない?」 「そういうことがあるらしい」 ルークはやや困った様子で肩をすくめました。 「ぼくの先祖は日本人じゃないんだ。きみには珍しいことが多いかもね。実際そこで暮らしたことのないぼくにも、わからないことのほうが多いけれど」 海を渡った遠い国で、日本の人々にはイギリスと呼ばれている所だそうです。 「へえ。もしかして、お前の髪の毛とか目が黒くないのはそのせい?」 「そうだよ。ぼくの両親も、祖父母も、みんなこういう淡い色さ」 はじめはたいてい驚かれる、きみにも逃げられかけたし、と冗談めかして言います。 「違うよ! あのとき……」 カイトが逃げようとしたのは、見慣れない容姿に驚いたからではありません。けれども、禊で実家を離れている相手にあのときのこと――幽霊の話をするなど、縁起でもありません。あわてて言葉を引っ込めました。 「ううん、何でもない。ルークも、ぼくが来たとき逃げようとしたよ?」 「だって、あれは、カイトの勢いがすごくって。食べられちゃうかと思ったんだ」 ごめんね、いいよ。二人はすぐに仲直りができました。 その晩、家に帰って両親に最近の訃報を尋ねます。父親が納屋に積んであった新聞を持ってきてくれました。 「カイト、誰のお知らせを探してるんだ? 父ちゃんも手伝うぞ」 「ううん……」 カイトは答えずに、お悔み欄をさかのぼって読みましたが、その中にはクロスフィールド家も盤城家も含まれてはいませんでした。 PR |
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